2008年2月28日木曜日

55 死に場所を探して

頭上の照りつける太陽の下、男は、死に場所を探していた。
山の草木が満ち溢れた奥深い山中で、ひっそりと建つ朽ちかけた小屋をみつけた。
だれもここに寄り付かなくなって、長い時が過ぎているのだろう。
青々と生い茂ったツタが、小屋のを包み込こもうとしていた。
入り口らしき引き戸をこじ開けるようにして、入ってみた。
中は、小さな台所らしき所と、六畳ほどの板間だけの簡素なつくりだった。
さび付いたのこぎりや縄など道具類がちらばっている。
元は、山仕事の人々の仮暮らしの小屋かもしれない。
男は、朽ちかけた板間の端に横になってみた。
目をつぶり、そのまま、じっとしていた。
山のさまざまな音が聞こえてくる。
何も考えずに、ただ、耳に音が流れ込んでくるままにしていた。
(こんなに心が穏やかになるのは、いつ以来だろうか)
はじめてのことかも、知れぬほどの穏やかさが、男を心地よくしていた。

男は、眠りから目覚めた。
夕方の光りが小屋の中に差し込んでいた。
やわらかな光りを見ながら、男は、この小屋にに住もうと考えていた。
死ぬのは、いつでもいいことだと思った。
死ぬにしても、ここで、暮らしたかった。
ここで、地球で生きているものとして、生きてみたかった。

男は、気づいていなかった。
山に入るときに、飲んだ大量の睡眠薬で、男は、すでに、死んでいた。
男は、そのことに気づくことなく、その小屋に住み続けた。

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