2008年2月28日木曜日

36 音

その女は、音の中に生きていた。誰もいない音の中に。静かな世界に。長い間、独りでいたために、人というものを忘れてしまった。人の心を信じられなくなっていた。自分をも信じていなかった。信じられるものは、静かな音の世界だけだった。目に映るものがすべて汚れて見えた。吐き気を感じていた。ある夜、女は自分の目にかみそりをそっと入れた。

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