垢と汚れで黒光りする服を身に着けたその男は、リヤカーいっぱいに積み込んたダンボールを引いて、大きな銭湯の裏口へと入っていった。
大きな口をあけた風呂焚きのカマドの前にダンボールを投げ落としてゆく。
カマドのまわりには、積み上げられた廃材や布ぎれの山、生ごみなどが混じったごみがあたりに積み上げられている。
このカマド部屋には、さまざまな臭いが混じりあい、尋常でない臭いが満ちていた。
ここがこの男の仕事場である。
仕事は、風呂焚き人。
ケチで人使いの荒いことで有名なここの主人は、重油を使って風呂を沸かすことは、めったにしないで、この男にダンボールや燃えるごみなどを大量に集めさせて、それを廃材とあわせてもやすようにさせている。
そんな主人の下で働くこの男には休みというものがこの何年もない。
しかも、主人は給料というものを払わず、飯が食えるだけでもありがたいと思えと常日ごろ、この男に言っている。
それでも、この男は文句も言わず、ここで働くようになって十数年になる。
ダンボールをリヤカーからおろし終わるとすぐにカマドに火を入れる。
ダンボールをカマドにどんどん投げ入れていく。
まわりの廃材や生ごみなどもどんどん投げ入れていく。
真っ赤な炎がメリメリと激しく大きく暴れはじめる。
カマド部屋の温度も急上昇してゆく。
男の身体中から、玉の汗が噴出してくる。
あばれはじける炎は、真水をどんどん湯へと変えてゆく。
カマド部屋の温度の上昇とともに、尋常でない臭いもさらに増してゆく。
この臭いのおかげで、このカマド部屋には、だれも寄り付かない。
主人でさえ、めったに入ってこない。
カマド部屋の奥にある、この男の寝泊りしている小さな部屋には、だれも入ったことがない。
この劣悪な環境のせいでこの男の前任者たちは、すぐにやめていってしまったが、この男は、満足していた。
自分自身は、ここ以外では、生きてゆくことができないと悟っていた。
なぜなら、この男は、主人の言いつけで、夜な夜なダンボールや燃えるごみを集めているのだが、年に数回、人をさらってきては、このカマドの奥の部屋に隠しているのである。
息はしていない。
もちろん、殺してある。
男は、人肉を食らうことに喜びを感じているのである。
食い散らかした肉や残った骨などは、全てカマドに投げ入れて、きれいに焼き尽くしている。
後には、何も残らない。
この男が己の喜びを満たし続けるには、ここでの風呂焚き人を続けることは、必要不可欠なのである。
男は、天職とまで考えている。
それゆえに、この銭湯の煙突からは、どす黒い煙りが立ち上る日が多いのである。
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