少女は、池袋の街を歩いていた。
騒がしい街だが少女にとっては居心地のいい街でもある。
何か悲しい街でもある。
少女はいつもこの街にいた。
少女は、自分が何故、ここに存在しているのか、だれかに教えてほしかった。
ものの本にも、答えは書かれていなかった。
誰も教えてくれない。
まわりの人たちは自分の存在理由を知らなくても、楽しそうに生きている。
何故なのか?
少女にはわからない。
誰に聞いても存在理由はわからない。
神様は知っているのだろうか?
少女の名前は沙耶。
都内の私立高校に通う聡明な美しい少女である。
沙耶の友達も学校の生徒たちもみな楽しそうに生きている。
本当にたのしいのだろうか?
嬉しいのだろうか?
沙耶には、わからない。
友達といる時は、いつも明るくしている。
よく笑っている。
自分が考えていることが笑われそうで、あまり話せない。
人間の存在理由とか、重い話はみんなが嫌うし、何か恥ずかしいようで、気取っているようで、嫌だ。
男の子たちは、親しげに話してくるが、全てが下心をもっている。
全ての女の子たちは、それを知っている。
ほんとうの愛情をほしがっている子もいる。
沙耶はそんな愛情よりも、人間の真実を知りたかった。
何故、人間はここにいるのか?
何故、人を愛することがすばらしいことなのか?
何故、憎むことがよくないことなのか。
この世の中で、お金持ちと貧乏人が同じ空間で存在しているのは何故なのか?
大金持ちは、昔から大金持ち、搾取するだけ。
人びとを騙し、莫大な利益を得ている。
何故、そこまでの利益が必要なのか?
ほんとうに莫大な利益を持った人間たちが存在しているのか?
一般の人びとには、そういう人たちの影らしきものしか、聞こえてこない。
殺人が繰り返されるこの世の中、戦争が繰り返されるこの世の中、何が正しいことなのか?
ほんとうにそれは必要なことなのか?
それは、憎むべきことなのか?
それとも、愛すべきことなのか?
戦争は必要悪なのか?
沙耶は、独りでそれらのことについて、調べてみるのだが、結局は、それらについて、真の答えを持っている人間がいるのか、いないのか、さえもわからない。
いないのだろう。
図書館に、こもり調べ続ける。
哲学、宗教、数学、物理、化学、どの書物にも答えはない。
この人間の長い歴史のなかで、それを解明したものはいないのか?
神は、人間にそのことをおしえてくださらないのか?
それとも、人間が知る必要がないことなのか?
人間が知ってはならないことなのか?
神とは、存在しないものなのか?
人間は、別のあるものから創り出されたものなのか?
神とは、そのもののことなのか?
人間は、地球の上で動き回るだけの小さな生き物というだけのことなのか?
それとも、人間が人間を作ったのか?
人間を造った人間はこの地球にいないのか?
他の星に移り住んでいるのか?
他の星が地球より前にできていたのか?
沙耶は、考えた。
人間が神によって創られたものならば、その人間を殺せば、その人間を創ったものが、なんらかのことを教えてくれるのではないか?
神が存在するならば、神が創りたもうた人間を幾人も幾人も殺し続ければ、神の意思に背くことになる。
神の損失となる。
神は、そのようなことを許しておくはずがない。
許すのか?
そのままに、するだけなのか?
人間、人類全てを殺しても、神にとっては、取るに足らないことでは、ないのか?
神は、実験をしているのか?
人間というものが、どのように進歩をしてゆき、どのようにして滅んでいくのか、いままでも、何度もテストしてきたことなのか?
恐竜の時代、また、他のものの時代。
その全て、テストした結果なのか?
恐竜を絶滅させたものに、何か起きたのか?
人間を大量に殺す。
人間を大量に生まれさせる。生産する。
そうすることによって、神は喜ぶのか?
人間を創り過ぎるとどうなるのか?
人間という生命が必要なのか?
人間のような生物ではなくて、人工的に創られたもの、ロボットのようなものを増やすことでも神は満足するのか?
しないのか?
殺すこともせず、生かすこともせず、ただ、何もせず、寿命を全うすることが神を喜ばすことになり、最後には、人間の存在理由を教えてくれるのか?
大量殺人をする人間は、神から何かを教えてもらったのだろうか?
何かを知っているのか?
神に選ばれて、殺人を犯したのか?
神にとって必要のないものが間引かれたのか?
死ぬことがすばらしいことなのか?
生きることがすばらしいことなのか?
人間を苦しめて殺すことがいいことなのか?
苦しめて殺せば、神は真実を教えてくれるのか?
戦争では、多くの人たちが死んでいった。
多くの人を殺すことが、兵士にとって、正義であった。
その正義は、神に認められたことによって、正義となったのか?
それとも、人間の正義なのか?
神は、大勢を殺した兵士たちに、真実を伝えたのか?
教えたのか?
真実を知ったものは、死んでいったのか?
真実を知ったものは、生きているのか?
死んでも、生きても、神は何も教えなかったのか?
真実を知るためには、神に自分自身で会うのがいいのではないか?
神に会うにはどうしたらよいのか?
神に会うには自分の命を捨てること。
死ぬことなのか?
天国にいるのが神なのか?
地獄にいるのが神か?
そのどちらにもいないものが神なのか?
神は、私なのか?
神は、人間なのか?
神は、崇拝されているものなのか?
神は、ひとりなのか?
多数なのか?
大勢の善良な市民は、神の存在を信じている。
だが、真実は知らされていない。
大勢の人を殺した兵士、大勢の人を殺した犯罪者、彼らもまた、神から真実を教えられていない。
では、誰が教えられたのか?
だれも教えられていないのか?
この世には、神に会ったというものが数人いる。
彼らがいうその神というものは、本当の神だろうか?
もし、本当の神であれば、何故、数人にしか姿を見せてくださらないのか?
何故、苦しむ人を助けてくださらないのか?
何故、この不平等な世界を存在させているのだ。
神に会った人たちは、何故、合うことができたのか?
正しいことをしたからか?
人を助けることが正しいことなのか?
生き続けると苦しみが多いだけではないのか?
苦しみがなく、すぐ、死ねたほうがいいのではないか?
苦しみのない人間がいるのか?
もし、苦しみのない人間がいるとすれば、それは、人間なのか?
神は、特別な存在を創造したのか?
神を冒涜してみることはどうだろうか?
神の悪口を言う。
神をけなす。
意味のないことだ。
神は全てのものに存在するという言葉がある。
神は、全てを見ているという言葉もある。
では、神は、全てのことを知っているのであれば、私が隠れて何をしようが神は、知っているということなのか?
神が全てのところにいるということ、全てのものに存在しているといくこと、全てを知っているということ、これらから、考えると、神とは、地球そのもののことではないのか?
人間は、地球の上に存在している。
神が地球ならば、地球の上で行うことは、神は、知ることができる。
そうではないのか?
地球というものは、地球に存在しているものを含めて、地球というわけだから、地球の土も地球であり、その上に存在している生き物、生物、人間、木、風、水、空、空気、これらのもの全てが地球ということになる。
神が地球ならば、その上で存在している生物もまた地球であるということは、人間もまた神であるといくことである。
では、神である人間が何故、苦しむのか?
それは、神ではないのか?
神でない証拠をだしているのか?
地球というものは、大きな宇宙の中のひとつの星である。
宇宙というものは、さまざまな星星が集まったものからできていると考えられている。
宇宙のひとつ。
宇宙の中にある地球もまた宇宙を構成しているものである。
宇宙を構成しているものが、宇宙ならば、地球もまた宇宙である。
ということは、地球は宇宙、宇宙は地球、太陽は宇宙、宇宙は太陽、地球も太陽、太陽も地球、地球も宇宙、宇宙は人間、宇宙は神、神は宇宙。
宇宙が神ならば、宇宙の一部である地球は神であり、神の一部である。
生物、人間も神である。
ぐるぐる回っている気がする。
これも神の罠なのか?
神を見つけられないように、神は、罠をしかけてあるのか?
これを突破したもののみ、神の存在を知ることができるのか?
これらのことから考えて、神は、宇宙であるとなると、人間の知るあらゆるもの全てが神であるということになる。
では、神は、神は私だ。
神がすることには、間違いがないといわれている。
では、私が殺人をしようとも、私が人を生かそうとも、私が盗みをしようとも、私の全ての行動は神がしているのだから、正しいということになる。
では、私があらゆることをしてみようと思う。
まず、手始めに、何からしようか?
いいことか、悪いことか、恥ずかしいことか、素敵なことか?
絶対数の少ない犯罪がいいのではないか?
私は、神だ。
私のすることに、間違いはない。
私の全てが、善だ。
沙耶は、街をぶらついている。
ゆっくり、ゆっくりと歩いている。
学生服を着たままの沙耶は、美しい。
中年のサラリーマンがそろりと近づいてくる。
沙耶の体を舐めるように視線を送っている。
「おねぇちゃん、ちょっと、一杯、付き合わないか?」
沙耶の胸を見ながら、へつらう。
間を置いて、沙耶は答える。
「いいよ」
沙耶の微笑が男に向けられる。
男の顔には、卑しい笑顔がのり、ヤニで黄ばんだ歯をだしている。
男は、沙耶を地下にある古びた居酒屋へと連れてきた。
煙草の煙で満ちた、その居酒屋は労働者風の人びとで混雑していて、むっとするにおいが満ちていた。
男は機嫌がよく、ひたすら喋っていた。
沙耶は、ほとんど聞いていなかった。
唾を飛ばしながら話す男の口を見ていた。
ネチネチと沙耶の体を見る男の目に、沙耶は、吐きそうな気分をおさえていた。
この愚鈍なもの、爬虫類、存在する必要のないもの。
男は、沙耶をホテルに誘った。
沙耶は、静かに、ついて行った。
一緒に、シャワーに入ろうという男に、断り、男に先に入るように言った。
男は、シャワーを早めに上げて出てきた。
沙耶は、シャワーを浴びにバスルームに入る。
すりガラス越しのシャワー室をのぞいている男の視線を感じでいた。
沙耶は、時間をかけてゆっくりとシャワーを使った。
沙耶がシャワーを終えて出てくる。
男は、待ちきれなかったのか、丸裸のまま、眠りこんでいた。
沙耶は、カバンから大きなナイフを取り出した。
男の体にそっと、またがる。
男の寝顔をそっと、覗き込む。
表情のない沙耶。
両手で、ナイフを逆手に持つ。
頭の上にナイフをゆっくりと持ち上げる。
一気に振り下ろす。
ナイフは、男の左胸に深々とめり込んで入った。
ナイフの長い刃の部分が完全に体に埋まった。
男の体が、ビクッと跳ねる。
男の目は、沙耶に向けられているが、焦点がずれている。
沙耶は、ナイフを静かに引き抜く。
沙耶は、男の胸から、流れ出る血を見ていた。
ドク、ドク、ドクン、ドクン、血があふれ出てくる。
沙耶はあふれてくる血を手で、男の胸一面に塗り広めた。
自分の乳房にも、血を塗りたくった。
沙耶は、シャワーを浴びる。
丁寧に丁寧に体を洗う。
ナイフもきれいにきれいに洗う。
着替えて、静かに、部屋を出て行った。
落ち着いた足取りで、長い廊下を歩いていく。
ホテルの外には、心地よい風が吹いていた。
風にふわりと揺れる髪。
ホテルのすぐ脇の角の自動販売機でオレンジジュースを買った。
自動販売機によりかかり、オレンジジュースをゆっくりと喉にながしていく。
喉を通り、体の奥深くへと流れていくオレンジジュースを感じていた。
沙耶は、何かいままでと違うものを感じていた。
いままでの自分から脱皮したような、心の何かがとれたような、台風が過ぎた次の朝のすがすがしい空気のような、すずやかな心になっていた。
何の恐れもなく、何の欲望もなく、ただ、存在を感じていた。
自分は、確かに、いま、ここにいる。
なにものでもない自分が、今、ここにいる。
空を仰ぎ見た。
星も月も何も見えない空。
それでも、今の沙耶には、きれいに見えた。
ジュース缶をゴミ箱に入れた。
メトロポリタンの方へとゆっくりと歩いていく。
ひどい酔っ払いのおやじが声をかけてくる。
今までと違い、嫌悪感も何も感じない。
心に怒りも震えも何も生じない。
メトロポリタンを仰ぎ見る。
深夜のこの時間、窓の灯りは少ない。
メトロポリタンへと入っていく。
上の階で部屋に入る。
父と母は旅行中のため、沙耶はこのホテルの一室を与えられていた。
一週間だけのホテル住まい。
大きな窓のカーテンを開け、眼下にある池袋の街を見下ろす。
いつもと変わらない池袋の夜の街。
シャワーに入った。
赤ワインを飲んだ。
そのままベッドに倒れこんで眠りに落ちていった。
翌朝、学校に登校した。
どしゃぶりの雨だ。
真っ赤な傘を差して、ホテルを出た。
男を殺したホテルの前を通っていく。
ちらりとも見ない。
視界にも入らない。
何の感情もなく、ホテルの前を通り過ぎてゆく。
公園に入っていく。
大きな噴水では、ハトが水を飲んでいる。
ハトたちの間をぬって、歩いていく。
ホームレスがベンチに寝転んでいる。
会社へと急ぐサラリーマンたち。
ヒールを鳴らして、女王様のようにあるくOL。
沙耶は、池袋の駅へと入っていく。
地下道をゆっくりと景色を見ながら歩いていく。
改札を抜け、階段をゆっくりと上り、大勢の人びとがひしめいているホームへと出た。
いつもと変わらぬ風景。
だが、沙耶にとっては、いつもとは違う風景に見える。
目的の電車に乗り込む。
満員電車の中。
誰かが、おしりを触っている。
そのままにしておく。
嫌でも、何でもない。
若い男が、助けてくれた。
おしりを触っていた男は、人ごみの中へと逃げていった。
沙耶は、若い男にお礼を言って、その場を別れた。
「いい人も、いるんだなぁ」
沙耶は、学校に行くのをやめた。
渋谷に行った。
洋服を買い、着替えた。
学生服は、コインロッカーに入れた。
電車に乗って、上野へと向かった。
動物園で動物を見た。
美術館へと入り、一枚一枚、丁寧に絵を見て、まわった。
絵の美しさにこれほど感動したことはなかった。
写真美術館へも入った。
キャパの写真展だった。
そこには、悲しい人たちがたくさんいた。
キャパの生き方に感動していた。
美術館を出て、もう一度、動物園に入った。
親子連れ、カップル、さまざまな人がいた。
動物園で、今朝、会った若い男に会った。
若い男は、沙耶に気づいた。
若い男は、沙耶に話しかけてきた。
「今朝は、大変だったねぇ」
沙耶は、軽くうなづくだけだった。
男は、いっしょに動物園をまわろうと言った。
沙耶は、うなづき、二人並んで、ゆっくり歩いた。
一時間ほど、いっしょにみてまわり、園の外に出た。
若い男は、そのまま、いっしょに歩いた。
若い男は、会社が休みなので、いっしょに暇をつぶしてくれないかと言った。
沙耶は、了解した。
日が落ちて、居酒屋に入った。
二人は、とめどもなく、話し続けた。
沙耶の気持ち。
沙耶は、人とこんなにたくさん長く話したことは、いままでないというほど、たくさん話した。
若い男もたくさん話した。
ふたりは、話がよくつづくよねぇといって、笑いあった。
ふたりとも、しゃべりにしゃべった。
二人とも楽しかった。
四時間ほどがあっという間に過ぎた。
携帯番号とメアドを交換しあい、その場を別れた。
沙耶は、池袋に帰り、街をぶらついた。
すぐに、おやじが声をかけてきた。
きりっとした服装で金持ちそうだ。
沙耶は、暇つぶしにそのおやじについていった。
おやじは、喫茶店でしゃべりはじめた。
どうでもいいようなことをしゃべっている。
しばらく、沈黙があった。
おやじは、手のひらを見せて、これで、どうだ、といった。
五万円の意味である。
沙耶は、オーケーした。
沙耶は、男の後に、シャワーに入った。
男は、ベッドで待っている。
沙耶は、シャワー室を出て、男の方へ向かっていった。
男に、言った。
やる前に、お願いがあるんだけど・・・。
あなたに、目隠しをしたい。
最初の十分だけ目隠しをしてほしい。
男は、なにやらうれしそうに、そわそわしながら、すぐに、自分で目隠しをして、喜んでいた。
沙耶は、かばんから大きなナイフを出した。
男にやさしい言葉をかけながら、男の腹の上にまたがった。
男は、喜んでいた。
沙耶は、男の左胸の上にナイフをあてがって、止まった。
ナイフに全体重をのせた。
ナイフは、男の体にすいこまれていった。
意外とナイフはするりと滑るように入っていった。
男の体は、びくんと一度、ふるえて、動かなくなった。
ナイフを引き抜くと血が吹き出てきた。
沙耶をその血を手に受け止め、自分の顔に塗りつけ、乳房に塗りつけ、又に塗りつけ、足に塗りつけ、体中血で赤く染めた。
沙耶は、興奮していた。
人間の死によって、興奮していた。
沙耶の左手は、自分の乳房を揉みしだき、右手は、股間に手を当てていた。
声を張り上げていた。
沙耶は、シャワーを浴びている。
丹念に体中を洗った。
体をきれいにした。
血を残らず、きれいに洗い流した。
沙耶は、着替えて、ホテルをでた。
自動販売機で、オレンジジュースを買って、ゆっくり飲んだ。
生きている感じを味わっていた。
とてもすがすがしい沙耶は、心のそこから、喜びが湧き上がっていることを感じていた。
沙耶は、三人目の男とホテルにいた。
男の胸にナイフを突き刺し、引き抜いた。
傷口からあふれる血。
傷口に唇をゆっくり、近づけ、血を吸い取った。
喉をならして、飲み干す。
顔中を血だらけにしながら、飲み続けた。
新聞では、ホテルでの連続殺人で大騒ぎ、テレビでも大騒ぎ。
沙耶は、少しも、気に留めていなかった。
沙耶は、四人目を殺した。
そのときは、何故か、満足感が得られなかった。
自分の手首を切った。
手首の傷から溢れる血を見ていた。
沙耶の顔には、痛みの表情はない。
すこしづつ、沙耶は、興奮してきた。
沙耶は、古い喫茶店の一階にいた。
沙耶の他には、四、五人の客がいた。
店員は、一人。
店員は、コーヒーを淹れていた。
沙耶は、かばんの中の失神させる神経ガスを静かに放出させた。
沙耶は、息をとめながら、トイレにはいる。
トイレで防毒マスクをはめる。
表の看板は、店に入るときにクローズにしておいた。
二、三分後、沙耶はトイレからでてきた。
店の中の人びとは、全員、倒れていた。
厨房の人も倒れていた。
沙耶は、窓のブラインドをすべて、下ろす。
沙耶は、店の奥にあった長いアイスピックを手に、戻ってきた。
痙攣している人びとの心臓を、その長いアイスピックで刺していった。
沙耶は、店の入り口にあったバットを持ってきた。
ひとりひとりの頭を叩き割った。
脳みそが飛び出た。
体も殴り続けた。
沙耶は、返り血を浴びながら、喜んでいた。
目は、大きく、見開かれている。
恍惚の状態にいた。
その時、店全体が揺れた。
店の入っているビルは五階建てだったが、一息に完全にビルは、つぶれた。
大爆音と共に店は、ぺしゃんこになった。
それから、数時間後、沙耶は、助けられた。
テレビカメラ、報道陣、野次馬に見守られるなか、沙耶は、レスキュー隊に助けられた。
沙耶は、奇跡の人として、テレビ、新聞で大々的に報道されていた。
倒壊したビルで助かったのは、沙耶だけだった。
沙耶は、数日後、病院のベットで目を覚ました。
沙耶は、テレビで報道されている自分をみた。
沙耶は、個室の部屋にいた。
沙耶の口元は、笑っていた。
テレビのコメンテイターは、ホテルの連続殺人のように、嫌なことばかりのときに、沙耶のように奇跡的に助かる人がいることは、うれしいことだといっていた。
悪いニュースの後に、いいニュースがあるのは、うれしいことだといっていた。
沙耶は、つぶやくように言った。
「これが、世間なんだなぁ」
沙耶は、次の日に退院した。
何もいわずに病院を出て行った。
それからの沙耶は、まじめに学校に行った。
普通に、友達と笑いあっていた。
ニュースでホテル連続殺人のことをいっていた。
沙耶は、友達と笑っていた。
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