2012年2月3日金曜日

74 眠る男

男は眠り続けていた。
いつのころからか、眠っているのだが、
それが、いつのころからなのか、
覚えていない。
男は、ある小さな部屋でただ、
眠り続けている。
死んだように、眠り続けている。
起きるのは、一日に数分だけ。
 男は、ある実験に参加することに、
誘われて、それに、従った。
それが、眠ること。
ただ、毎日、眠ること。
それが、実験になると言われて、
毎日、ただ、眠っていた。
初めのうちは、毎日眠ることを続けることは、
厳しいものがあったが、
いつしか、一日のほとんどを
眠り続けることに、
苦痛を感じることもなく、
ただ、眠るだけの生活が普通に
なってきた。
眠っている間には、
たくさんの夢を見ることが
できた。
自分で見たい夢を見ることもできるように
なった。
いつも、夢の中では、
自分が主人公の映画の
中にいるようなものだった。
楽しい毎日である。

 ある時、夢の中で、
自分が眠り続けていることを理解していた。
そして、考えた。
夢の中が、ほんとは現実なのではないか。
夢でなく、現実と考えていることが、
夢ではないか。
夢の中で何日間も考え続けていた。
そのうち、夢の中で結論がでた。
夢の中であろうと、なかろうと、
どこがほんとの現実であろうと、
それは、さほど、
大きな問題ではない。
自分が存在していることを
確認できるところが、
自分の存在している場所である。
との、
結論である。
男は、それからは、
さらに深い長い眠りを
続けるようになった。
 いつしか、実験も終わったのだが、
男は、目を覚ますことなく、
眠り続けた。
男は、実験室に置かれたまま、
放置された。
そして、
だれもいない実験室は、
何年もそのままになった。
男は、今も眠り続けているはずである。