2008年5月16日金曜日

68 そこに存在しているもの

山の中をさまよい続けた。
自分がどこにいるのか見当がつかなくなって、数時間がたっている。
もう、日が暮れてしまった。
なんどもキャンプに来ている山だったのだが、気づいたら、
見知らぬ風景の中にいた。
最初は、簡単に戻れると考えて、おおよその方角を目指して、進んでいたのがいけなかった。
進むにつれて、不安が次第に深くなっていった。
行けども行けども、見慣れた風景には、たどり着くことができなかった。
一度は、来た道を引き返したりもしたが、余計に自分の向かっている方角が把握しきれなくなってしまった。
いつも、自分ひとりの行動をするので、私がここにいることもだれもしっていない。
助けにだれかがくることもない。
そのことが頭の片隅をよぎると、恐怖が体中を駆け巡った。
死というものを日常身近にあるものと考えてない私は、すぐ近くに近寄ってきている死を
感じていた。
立ち止まると、静かな山の中で独りを感じてしまい、死を意識してしまうので、立ち止まることをしなかった。
この休憩をせずに歩きつづけたものが、悪かった。
休憩できなかったのは、身体でけではなかった。
特に、頭が休憩できていなかった。
その頭で、解決策を考えているのだから、いい案が見つかるはずがなかった。
私は、どんどん山の奥のほうへ奥のほうへと立ち止まることをせずに、突き進んでしまった。
その結果が、日が暮れた山の中で、一人、不安を抱えた状態で闇の中で、身を縮めて、日が昇るのを待ちに待っている。
永遠のような気がしてくる闇。
日常の中では、山は静かなものだと感じていたのだが、闇の中にある山の中で一人いると、山はさまざまな音で、満ちていた。
夜の山は、静かではなかった。
風の音、葉の揺らぐ音、聞いたことのない鳥のような鳴き声、何かが近くにいるような気配、枯れ枝らしきものが落ちる音、私の五感は、フル稼働していた。
稼動しすぎたのか、私は、見てはいけないものをみてしまったのかもしれない。
そこに存在してはいけないものが、私の目の前に存在していた。
宇宙。
果てのない広大な宇宙が、私の目の前に延々と広がっていた。
鼓動している宇宙、生きている宇宙、想像を絶する壮大な力が、そこに内在していることを知った。